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ブルースモーク
闇現

闇現

※注意
本作の内容は全てフィクションであり、実在の人物・事件・団体とは一切関係ありません。また、原作者様・出版社様・その他の関係者様とは一切関係ありません。

 

【使用ルール】新クトゥルフ神話TRPG(7版ルールブック)


【推奨人数】1~4人(人数が多いほど難度は低くなる)


【推奨技能】なし(《隠密》があれば、判定の機会はある。しかしどんな技能も役立つ可能性はある。)


【推奨職業】なし(探索者同士、知り合いでなくても構わない)


【導入】
ときは1960年アメリカ。探索者たちはロードアイランド州で噂になっている、「ナラガンセット湾で釣れる、食べると天国が見える魚」をついに手に入れた。オカルトのつてがあったのかもしれないし、実際に釣りに行ったのかもしれない。
探索者たちは思い思いの理由で、それを食べることにした。


【探索動機】
ナラガンセット湾近郊に住んでいて、たまたま魚の噂を聞いて興味を持った住人か、あるいはオカルトに興味のある人間であれば容易に動機を得られるだろう。
あるいは親族や知人に勧められたかもしれないし、実際に親しい者の中には魚を食べて天国を見たと証言する者もいるかもしれない。そういった人脈をバックストーリーに設定してもよいだろう。
ナイルズ・フォスターという好奇心旺盛な若者との繋がりや、人類学への知識欲をバックストーリーに設定しても楽しめるだろう。

※このシナリオはH.P.ラヴクラフト作「闇をさまようもの」の25年後を空想した二次創作作品です。
該当作品は事前に読んでも構わないし、読んでいなくともシナリオを遊ぶことができます。
(セッション前後に、原作も是非読んでいただければ嬉しいです。)


【本作品には以下の表現が含まれています】
極端な暗所や閉所
死体
死体損壊およびカニバリズムの痕跡

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真相とまとめ
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(※試し読み版では省略)

 


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シナリオを遊ぶにあたって
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【キーパー用情報】

【❕】このシナリオを遊ぶ中で全ての情報を得る必要はない。
状況を有利に運ぶヒントになる可能性はあっても、些細な情報の取り逃しによってシナリオの結末に影響が及ぶことはない。そこにあるものは今に至るまで世界の裏に秘められてきた神秘の姿であって、必ずしも解決策に関わるものではない場合もある。
以上のことを、キーパーはプレイヤーに共有してもよいだろう。
次々と現れる謎の単語や情報に対して、どのような姿勢で待ち構えればよいのかのイメージを共有することは、プレイヤーの肩の力を抜くのに役立つかもしれない。

【❕】このシナリオで特に楽しんでほしい要素としては、「妄想とリアリティー・チェック(基本ルールブック158p~)」のルールを存分に体験できる部分だ。暗黒という空間は探索者たちの五感を大いに狂わせ、正気を揺さぶるだろう。
キーパーは探索者たちのキャラクターシートに記載されたバックストーリーを参照しつつ、幻覚や幻聴で探索者たちを悩ませてほしい。幻覚表の用意もあるが、これは参照してもいいし、まるきり無視してもいい。
ただし、このとき苦しめるのは探索者だけであり、プレイヤーに過度なストレスがかかる表現や処理方法は避けたほうがよいだろう。
もしもプレイヤーが1人のみで、探索者が狂気に陥らないままシナリオが進行する場合は、「何か見えた気がする・何か聞こえた気がする。平静を失っている状況であったなら、こんな些細な誤認に対してさえ憔悴していたかもしれない」といったふうに描写してもよいかもしれない。
なお、旧版クトゥルフ神話TRPGルールブックを使用し、シナリオをコンバートして遊ぶ場合、リアリティーチェックのルールは参加者全員ですり合わせて、ハウスルールを設けるなどしながら遊んでほしい。

【❕】もしもキーパーが新クトゥルフ神話TRPGに不慣れの場合、今回のシナリオを遊ぶにあたって基本ルールブックの以下の項目を特に読みこむことを推奨する。
プレイヤーが不慣れな場合であれば、8章「正気度」と10章「ゲームをプレイする」を復習すれば混乱しにくいだろう。

●第10章「ゲームをプレイする」(180p~)
プレイヤーからの提案に対し処理に困ったときや、その他様々な困りごとへの対処法が掲載されている。また、バックストーリーを汚す際や、狂気による妄想を描写する際のヒントも書かれている。いざという時に助けになるだろう。
●チェイスルール(128p~)
場合によってはチェイスになることなくセッションを終えるかもしれないが、もしもこのルールを使うとなったらクライマックスシーンである上、様々なプレイヤーのアイデア次第ではチェイス以外のルールも併用する可能性もある。慌てないようにしっかり読み込んでおくことをおすすめする。
●第8章「正気度」(151p~)
旧版のルールで慣れているキーパーもいるかもしれないが、新版(7版)ルールでは狂気に関わるルールが少し変更になっている。また、このシナリオではリアリティーチェック(158p~)のルールを特に利用するため、これも読んでおくと安心だ。
●INTロールと《アイデア》ロール(85p~)
プレイヤーが謎解きに迷ってしまったり、行動方針が決まっていたとしてもどう行動したらいいのか分からなくなってしまうことがある。そんなときにはキーパーから助け舟を出すことができるが、たとえ数値が同じだとしても、ルール上ではINTロールと《アイデア》ロールは役割が異なる。チェックしておいて損はない。

 

 


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導入
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【描写】
夜の闇を、白熱電球の街灯の光が払う。
行き交う車は文明の活気を語り、窓の明かりはそれぞれの人生があることを物語る。
文明の灯はついに星月を霞ませ、人々は夜闇と未知への恐怖を忘れつつあった。

ときは1960年、アメリカのロードアイランド州。
世界情勢に混沌と禍根は残しつつも、わずかに落ち着きが戻ってからは、国民の関心が技術と人権に向いた時代だ。
テレビが家庭に浸透していき、人々のあいだで様々な噂・話題が生まれては急速に伝播した。
それは眉唾な話題もまた同じ。
まことしやかに噂されている話によれば、ナラガンセット湾にて獲れる魚の中には「食べると天国を見られる魚」がいるというのだ。
はじめは三流のホラ話のような扱いで、物好き以外に取りざたされている様子など、とんとなかった。しかし昨年、テレビ番組で魚を食べて天国を見たと証言する人間が現れてからは一転。オークションハウスで高値で取引されたとの話まで持ち上がるまでになり、噂好きな人々の一部の間では、ナラガンセット湾で魚探しに興じるのがささやかなブームになったのだった。

探索者たちは噂に乗じてか、あるいは何らかの研究のために魚を求めた者だろう。
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【情報】
【❕】このシーンでは、手に入れた魚を調理し、食べるところまで描写する。
プレイヤーの興味次第では魚を手に入れるまでの様子を過去回想の形で描写してもよいし、魚の噂に関して調査してもよいだろう。しかし最終的に探索者には魚を食べてもらう。
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魚を手に入れるまでの描写や、魚の噂に関する調査を行う場合は以下の情報をもとに描写・処理をしてほしい。
●魚を食べ、天国を見られたものは何人か実在する。しかしそのまま天国を探しにいって連絡を絶った者もいれば、魚を食べても何も起こらなかった者もいるそうだ。
●天国を見られた魚と、何もなかった魚に、味や見た目の差異はない。
●「天国を見られる魚」は特定の形や色をしているわけではない。しかし全て奇形であり、船や人がどれほど近づいても反応せず、ぼんやりと泳いでいるのが特徴だという。ただしそういった特徴を持っていたとしても、実際に食してみて天国が見られるかどうかは運次第と言われている。
●「天国を見られる魚」の特徴を持つ魚を捕獲したと思わしき話は、月ごとに増している。ただし、高値で売り捌きたい人間のホラ話の可能性もあり、定かではない。
●ナラガンセット湾の近隣住人は、魚を求めて潜水し、そのまま陸まで戻ってこなかった者もいたと語る。
●ナラガンセット湾の近くを探索中、グループ《幸運》ロールに成功すれば、こんな話も聞けるかもしれない。
とある漁師曰く、25年前にプロビデンスの医者に頼まれて舟を出し、奇妙な石を沖のほうへ捨てに行った。漁師自身は石の詳細を知らないし、その石が魚に関わりがあるなどと根拠もないが、何かの縁を感じていると語る。
●「天国を見られる魚」を探すならば、案外あっさりと見つかるだろう。湾の底から小舟のほうへ呑気にふわふわと浮かんできて、これまたのんびりと水面のゴミをつついているのだ。探索者か、あるいは探索者へ魚を提供してくれた協力者にとっては、「ああ、多分これだ。」と、直感できたことだろう。
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探索者たちが手に入れた魚の詳細や、食してみた際の味や現象は以下の通り。

●得られた魚はごく標準的なサイズだ。体高はなく痩せ気味で、生きているが活発さがない。ナラガンセット湾で釣れる代表的な魚種に見えるものの、骨格が捻じれていて鱗の大きさも不揃いで、体の所々にはコブができてしまっている。
●捌いてみても、至って普通の身をしている。奇形で泳ぐのも困難だったろう体格の魚でも、餌には困らなかったのか、艶やかな身質をしており美味しそうだ。ナラガンセット湾の水質の問題から生食は推奨できないが、どんな調理を施したとしても美味しく食べられるのではないかと見立てをつけられる。
●食べてみると、魚体の見栄えとは裏腹に弾力と旨みが強く、まるで貝類に近いような滋味深さがある。噛み締めるたびに口内が湿り、どこか夢心地のような多幸感にも包まる。それは食を進めるごとに増し、手が止まらなくなってしまうだろう。

【❕】全員が魚を食べ進めた頃、別項【誘い】の描写へ進む。

 

 


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誘い
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【描写】
魚の白身が喉を滑り落ちていく度、未知の渇望が押し寄せる。脳の暗闇を快楽の彗星が焼き払うと、やがてそれ自体が生きているかのように意識を呑み込み、夢を見せ始めた。

まるで絵画を鑑賞するようにして、遠い白い丘を眺めている。
その向こうに見えるのは、真理の王の座す場所。その者は人類の抱える謎に対する全ての答えを持ち、永遠と死を内包している。全知の闇より下賜される永遠と智慧は、知的生命体としての至上の幸福に違いない。その悍ましい事実を知るのに、本はいらなかった。只々、人類種に刻まれた旧き記憶がそう語っているのだ。
刹那、暗黒に座す真理の王の三つに分かれた炎の目と、視線が交わった。奇妙な焦燥感が胸に溶け広がる。肌にあたる雪にも似た、脳に何かがひたひたと染み込むかのような名状しがたい感覚があるのだ。
私は導かれるままに、私を求める場所へ、足を運ばせていた。インク色の海が私を迎え入れる。水底を掬い、冷え切った両手を覗き込むと、そこにはトラペゾヘドロン(ねじれ双角錐)の石が輝いていた。

「いやだあああ、しにたくない!」
空気を絶つような鋭い悲鳴で、はっと我に返った。暗雲が晴れた脳は、自分が今、いつの間にか知らない場所にいると即座に導き出す。根と土が絡み合った壁に囲まれ、そんな粗末な壁面には無造作に掛けられた鈍色の道具が並んでいる。それらの手前に設えられた作業台に置かれたランプの小さな赤い灯が、それらに反射していた。
穴倉のようなこの場所に唯一備わっている出入口は、洞窟の口に布をひっかけただけの造りだ。四肢は何日も歩き通したかのようにやけに重く、首には金属の首輪がはまり、壁からのびる鎖に繋がれているようだ。
絶叫を繰り返すだけのオモチャと化した男が、自分たちと同じ金属の首輪で引かれて、黒装束の不気味な者たちによって今まさに連れていかれるところだった。ランプの小さな灯りで、残された黒装束の女ひとりと探索者の影だけが揺れる。
あの哀れな男の叫びが、いずれ閉ざされた布の向こうで止むとき、次は自分の番が訪れるのではないか。
白昼夢の中で真理の王への謁見を果たしたのみならず、おぞましい場所で目が覚めるという異質の体験をした探索者は、1d6+5あるいは1d20+5の正気度喪失。

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